決算解説ブログ IROG

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【決算解説】大規模なリストラを実施、苦しい状況が続く「三陽商会」

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今回は、総合ファッションアパレル企業「三陽商会」の2018年12月期第3四半期の決算解説です。

まとめ

  • 今期の売上高は前年同期比2%減の121億円、営業利益は2.6億円減の-14.5億円で減収減益
  • 最盛期である第4四半期に向け、人気モデルの杏を起用するなど積極的にマーケティングに投資
  • 人件費が前年から7,700万円減少、3度目の大規模なリストラも実施予定
  • プレミアムブランド化、DXの推進、M&A・資本業務提携を重点戦略とし、経営改善及び成長再加速へ


企業概要

三陽商会は、オンワードホールディングス、ワールド、TSIホールディングスに並び、大手アパレル4社の一角を占める伝統的なアパレル企業です。1943年に創業、「レインコートのサンヨー」として一躍有名になり、その後総合アパレルに転身して事業を拡大してきました。
 
高品質なハイブランド商品に定評があり、主なブランドとして「EPOCA」「LOVELESS」「Paul Stuart」「MACKINTOSH PHILOSOPHY」などがあります。
 
また、1970年から約40年間、バーバリーとライセンス契約を結び、同社の代名詞と言われるほど販売に力を注いできました。しかし、2015年に契約が終了、それ以降は業績悪化に苦しんでいます。

 

2018年第3四半期の業績・収益構造(P/L)

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今期の売上高は前年同期比2%減の121億円、営業利益は2.6億円減の-14.5億円で減収減益となっています。また、売上拡大に向け積極的にマーケティングに投資したため、販管費が3%増の74.2億円となりました。

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上述のように、マーケティングへの投資を厚くしたため、広告宣伝費が前年よりも2億円増加しています。
 
また、人件費が前年から7,700万円減少しています。9月末には250人程度の希望退職を募ると発表しており、人員の削減による経営改善を試みているようです。

 

2018年第3四半期の資本価値(B/S)

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続いて、バランスシートです。資産の合計は766億9,000万円、負債は266億8,900万円、資本(純資産)は500億100万円となっています。
 
現金及び預金は189億4,200万円で、資産全体の24.7%を占めています。第4四半期に向けた商品入荷の増加により、6月末から約70億円減少しています。
資本の内訳は、資本金及び資本剰余金が250億6,200万円、利益剰余金が184億6,000万円です。

 

2019年度の通期計画

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上記の結果を受け、2019年度の通期計画の修正を行っており、目標計画は売上高が620億円、営業利益が5億円の黒字化となりました。
 
なお、2018年度の売上高の着地見込みは605億円です。現在の累計は413億8,900万円のため、進捗率は68.4%となっています。

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売上を拡大するべく、ブランドを展開している各チャネルで様々な施策を実行しています。特に、百貨店・直営店における新ブランドの店舗の立ち上げ、自社ECのコンテンツの拡充の影響が大きそうです。

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また、黒字化を達成できるよう、経費削減による構造改革と積極的な成長投資を並行して取り組んでいます。同社は2013年度以降大規模なリストラを3度行っており、削減した費用をデジタルの強化や自社ブランドの育成に充てていくようです。

 

中期経営計画

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最後に、三陽商会の中長期的な戦略について見ていきます。同社の経営理念は「ファッションを通じ美しく豊かな生活文化を創造し、社会の発展に貢献する」で、消費者との接点となる商品、接客・サービス、コミュニケーション、売場環境を強化していくとともに、今後はデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進やサステナビリティを重視していくようです。

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具体的には、プレミアムブランド化、DXの推進、M&A・資本業務提携を重点戦略とし、日本の技術力に基づいた高品質・高付加価値な商品を提供する”ジャパン・プレミアム・ファッションカンパニー”を目指していきます。

 

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”プレミアムブランド化”に関しては、主に3つの施策に力を注いでいきます。1つ目が「直営店の強化」です。コーポレートブランド・オリジナルブランドを中心とした直営店の出店を加速し、他社ブランドのライセンスに依存したビジネスモデルからの脱却を図っています。

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2つ目は、これまでは抑制していた「ブランディングマーケティング強化」です。2018年第4四半期は、朝刊の折り込みチラシや人気モデルの杏を起用するなど積極的に投資していますが、どういった結果に結びつくのか次回の決算が楽しみです。

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3つ目が「サスティナビリティ」です。持続可能な社会の実現を目指すと同時に、ブランド価値を向上していきます。具体的な施策としては、GLOBAL CITIZENをコンセプトとする”APOLIS”というブランドの展開や、リアルファーの使用を全面的に禁止にしていくようです。

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”デジタルトランスフォーメーション”は、川下から川上までバリューチェーンの全領域で推進していきます。

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特に気になるのが、AIプラットフォームの運営等を行っているABEJAとの業務提携です。プロフィールや過去の購入履歴をもとに顧客基盤を構築し、パーソナライズな提案を行っていくほか、来店客の動的なデータを収集できるビーコンの活用等に取り組んでいきます。

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"M&A・資本業務提携"は、重点戦略とのシナジーのある企業にフォーカスして行っていくようです。具体的には、オリジナル性やサステナビリティな観点のあるブランド・企業や、サブスクリプションやシェアリングなど新規のビジネスモデルを軸にしている企業など。ワールドも積極的にM&Aを行っていますが、従来のアパレル企業の今後を行く末を占う動き方となりそうです。
 
バーバリーとライセンス契約を終了した2015年以降、年々売上が減少している三陽商会。大規模なリストラやブランド構築、デジタル化の推進等により経営改善を図っていますが、まずは2019年度に営業利益を黒字化できるか注視していきたいと思います。

引用:
株式会社三陽商会 平成30年12月期第3四半期決算