【決算解説】ファッション産業における総合サービス企業へ「ワールド」
今回は、総合ファッションアパレル企業である「ワールド」です。下記の記事で複数のアパレル企業の決算資料を見ていた際、色々と興味深い点があったので取り上げました。
まとめ
- 19年2Qの売上高は前年同期比1%増の1,171億7,500万円、営業利益は前年同期比2%増の59億4,400万円で、M&A効果により増収増益
- ブランド事業の売上は落ち込んでいるものの、投資事業やデジタル事業が成長を牽引
- グループ全体のEC取扱高及びEC化率は順調に推移
- 採寸データをもとにオンライン注文できるD2C型オーダースーツ事業をリリース
- ファッション産業における総合サービス企業へと移行できるか、今後の展開に期待
事業概要
ワールドは、1959年に創業した総合ファッションアパレル企業です。
ブランド事業
アンタイトル、インディヴィ、タケオキクチなど全60以上のブランドを取り扱っています。韓国や台湾などアジアマーケットにも進出しています。
投資事業
ブランド事業に偏ったポートフォリオを改善すべく、新規事業・既存事業の開発・改革やM&Aを積極的に行なっています。2017年には、日本政策投資銀行と共同で株式会社W&Dインベストメントデザインを設立し、ファッション産業に特化したファンドの運用を開始。
デジタル事業
自社でEC事業を行うほか、ファッション関連企業へのソリューションの提供やコンサルティングも行なっています。ECに関しては、ワールドの直営ファッション通販サイトである「WORLD ONLINE STORE(WOS)」と子会社のファッション・コ・ラボが提供しているF1層向けファッション通販サイト「FASHIONWALKER(FW)」があります。
プラットフォーム事業
ワールドが新たな成長事業として力を注いでいるB2B事業。長年培ってきた生産、店舗・販売、空間創造に関する一連のソリューションを提供しています。
19/03 第2四半期の業績
M&A効果により増収増益を達成
19年第2四半期の売上高は前年同期比1%増の1,171億7,500万円、営業利益は前年同期比2%増の59億4,400万円となっています。M&A効果が支えとなり、増収増益となったようです。
販管費は前年同期比1%減の614億4,200万円となっています。人件費の効率化・削減が効いているようです。
ブランド事業の売上は落ち込んでいるものの、投資事業やデジタル事業が成長を牽引
冒頭で述べたように、ワールドは4つの事業セグメントで構成されており、国内アパレルブランドとアパレルプラットフォームを”アパレル事業”、それ以外を”非アパレル事業”と位置付けています。
ワールドは、ブランド事業への依存から脱却するため、非アパレル事業の利益の割合を伸ばしています。現在の非アパレル事業の割合は34%で、中期的(3年ほど)に50%まで高めていくようです。
続いて、セグメント別の実績です。ブランド事業の売上は落ち込んでいるものの、投資事業やデジタル事業が成長を牽引しています。
ブランド事業の売上高が935億8,300万円で、前年同期比8%減と落ち込んでいます。売上高の8割以上を占める国内アパレルブランドの停滞が大きな要因です。
投資事業の売上高は前年同期比53%増の251億4,500万円、セグメント利益は前年同期23億2,300万円増の56億5,400万円で、増収増益となっています。ポートフォリオ管理における配当収入の増加やM&Aの効果が効いています。
ワールドは、17年12月に家具・インテリアの卸売や店舗運営を行う”アスプルンド”、18年4月にブランド古着のセレクトショップ「RAGTAG」を運営する”ティンパンアレイ”を買収しています。
アスプルンドは、投資によって成長を加速させると同時に、強みである商品開発力を「イッツデモ」などワールドの雑貨事業にも活かしていく狙いがあります。また、ティンパンアレイに関しては、ワールドの自社製品をリユース事業によって補完するだけでなく、成長市場である二次流通市場を開拓していくようです。
デジタル事業の売上高は前年同期比3%増の87億4,500万円となっています。Eコマースは配送料の値上げやブランド側のバーゲンセール、システム移行に伴う障害などの影響により減収減益となりましたが、デジタルソリューションが黒字を達成し好調です。
上記のようにECは前年に比べ減収減益となったものの、グループ全体のEC取扱高及びEC化率は順調に推移しています。今期のグループEC取扱高は146億2,800万円で、EC化率は12.4%です。
プラットフォーム事業の売上高は前年同期比13%減の577億1,400万円と減少しているものの、セグメント利益が前年同期10億9,000万円増の13億6,800万円と、体質が改善されています。衣料品等の企画・材料調達・製造を行う”生産プラットフォーム”と小売業及び販売代行業、店舗運営支援等を行う”販売プラットフォーム”の生産性が向上していることが大きな要因です。
今後の方針
ファッション産業における総合サービス企業へと移行できるか、今後の展開に期待
1959年にニット婦人セーターの卸売業として創業されたワールドは、これまで様々な変化を遂げてきました。工場や問屋から商品を仕入れ、専門店に販売する”卸売業”から、自社製品を自前の小売店で販売する”SPA業態”を推進。さらに生産から販売までを一貫して行う”プラットフォーム”を構築、2017年には事業持株会社化によるファッション産業における総合サービス企業へと移行しようとしています。
百貨店からショッピングセンター、ロワーからアッパーまで多様なチャネル・価格帯でブランド事業を展開しており、2017年度には55ブランド、2,489店舗を抱えています。
上記の事業で培った企画や生産、販売などの各種サービスを統合し、プラットフォームを構築。それぞれの専門性を高めながら、規模の経済を追求することで、高いコストメリットを実現しています。
そして、新たな成長軸として力を注いでいるのが投資事業とデジタル事業です。積極的にM&Aを行い、バリューアップを狙う他、成長市場の開拓や新規事業の開発を行なっています。また、上記のプラットフォームサービスを、アパレル企業向けのB2Bソリューションとして提供しています。
新規事業の例としては、2018年に株式取得したオムニス社との連携により実現したD2C事業「UNBUILT」があります。一度店舗でスタッフによる採寸を受けると、以降はスマートフォンでスーツをオーダーできるようになります。またスーツをはじめ、インナーやシューズなどのコーディネートなども提案してもらえるようです。
ワールドがDtoC事業に参入 オーダースーツからレンタル、保管まで│WWD JAPAN
いくつかアパレル企業の決算資料を見てきましたが、ワールドは、国内アパレル市場の成熟を踏まえ、次のステージに向けた準備を着々と進めている印象があります。現在仕掛けている種が花を開くのか、とても楽しみです。